【追悼】勝国先生 ありがとうございました
今年2月、長年に渡り歌舞伎の舞踊や長唄界をリードしてこられた長唄三味線方の人間国宝 杵屋勝国師が急逝されました。
享年77歳 とても惜しまれる訃報でした。
歌舞伎では、故中村勘三郎丈や坂東玉三郎丈の舞台を主に演奏されました。
私が申すのも僭越ですが、師のキレのある撥捌きは豪快で華やか。ノリ(テンポ)も毎回変わらず正確で、掛け声も大勢での演奏をひとつに束ねる統率力のある声色でした。どれをとっても師のハイクオリティな演奏は、舞踊をより引き立たせ、長唄の演奏も、観劇のお客さまにご満足いただける重要な要素であることを知らしめました。
歌舞伎での舞台の前には、必ず楽屋で一度通して練習をしました。
10人、時には「娘道成寺」などは20人になる大人数での演奏ですから、一糸乱れぬより良い演奏のために、ノリや唄のクオリティのチェックとウォームアップを兼ねての練習をするのが、勝国師の流儀でした。玉三郎丈、勘三郎丈の毎度、絶対気を抜かない気迫溢れる舞台に、長唄からも芸で返すような真剣勝負さながらの集中力を極めた演奏でした。そのオーラはほかの役者さん、演奏家、松竹の方々にも伝わっていたはずです。
私も30年ほど前からご一緒させていただき、特にこの20年は流派の垣根を超えて、師の舞台にはほとんど重用してくださいました。師のご門弟の「くにね会」の皆様も厚く懇意にしていただきまして、浴衣会や勉強会にも毎度お呼びいただきました。
多くの経験を積ませていただきましたことは、とても貴重な財産となりました。
昨年、それまで長く勤められた歌舞伎での演奏を引退し、これからは次世代を担う中堅や、さらに若い人たちを育てていきたいと申されておられたので、とても残念でたまりません。
いただいた数々のご恩の感謝を申し上げますとともに謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
松永忠次郎