松は日本人に好かれるおめでたい木
皆さまこんにちは
お花見には行かれましたか?
今年のお花見は、3年ぶりにコロナの規制が緩み、以前の活気を取り戻したお花見シーズンでした。
さて、日本を象徴する樹木はなんでしょうか?皆さんは桜でしょうか?
私は、松です。
桜はもちろん美しく、歌舞伎にも欠かせません。外国人観光客にも大人気ですね。
松は日本人にとって神聖をイメージさせる木
お正月に玄関や門に立てて福の神様をお迎えするのも松と竹です。葉が落ちないで、年中青々とした彩りを見せてくれることから、おめでたい木と言われています。
松は100年に一度花を咲かせるとも言われていることから、十返り(とかえり)の松という言葉は1000年で10回咲き、歳月を経た、おめでたい意味でも使われています。
盆栽の代表格でもあります。
曲がりくねって生命感を醸し出し、あたかも神が宿っているかのように見えます。
松の大夫
長唄の歌詞の中に「松の位」や「松の大夫」という言葉があります。
大夫とは、古代中国の貴族の位の一つで、日本でも官位の呼称として用いられ、儀式や芸能なども取り仕切る官職であったそうです。武家の時代には家老職に当たる者や芸能の一座の座頭(ざがしら)などの呼称に使われていました。
竹本義太夫、常磐津文字太夫など、浄瑠璃を語る者の名前にも用いられるようになりました。
江戸時代の遊女の最高位の呼び名にも大夫が用いられ、高尾大夫や夕霧大夫などが有名です。
秦の始皇帝が雨宿りに使った松に大夫の爵位を授けた逸話から、
大夫を「松の位」とも言います。
古典芸能と松は
お能の舞台には松葉目(まつばめ)という立派な松の絵が描かれています。歌舞伎や日本舞踊でも、お能から題材を得た演目の舞台背景には松葉目を用います。
松を唄った曲
「老松」
1820年 四世杵屋六三郎作曲
もともと演奏用の曲の代表格ですが、近年、舞踊でも多く出される人気曲です。
謡曲「老松」の歌詞をあちこちに用いて格調高くしたり、ガラリと雰囲気を変え、華やかで艶っぽい部分があったりと変化に富んでいます。
「松の緑」
1854年 四世杵屋六三郎作曲
六三郎の娘が、杵屋六の名前を襲名したお祝いに作ったとされる曲です。遊廓に関連した曲を多く遺した六三郎らしく、「将来は松の位の太夫になれるように」と花魁の幼少期 禿(かむろ)の出世を願う内容に品良く絡めている。
長唄の手ほどきによく用いられていますが、とても難易度が高い曲です。
「松の翁」
1878年 三世杵屋正治郎作曲
作曲者が滞在したお屋敷の見事な庭の絶景と主人の繁栄を祝って作られた曲。この「松」とは家の主人松永氏の名前からの「松」なので、ここでご紹介するのは少々強引なのですが、「翁」や「三番叟」から歌詞や三味線の手を用い格調高く、私もとても好きな曲で、よく演奏いたします。
「君が代松竹梅」
以前、「梅」のブログでご紹介した曲で、河東節の「松竹梅」も私の好きな曲です。
「安宅の松」
1769年 富士田吉治作曲(諸説あります)
歌舞伎の舞踊曲で、唄浄瑠璃と呼ばれ、前半は河東節の節付けで始まり、篠笛と絡ませた美しい旋律の聴かせどころや、わらべ歌風など、変化に富み、全体的に高音域が多い歌唱難易度の高い曲です。
頼朝に追われる義経一行が、奥州へ向かう途中の安宅にさしかかりました。松の木の下で落ち葉を掻いている子どもたちとの交流の様子が描かれている曲です。
「高砂丹前」
1785年 初代杵屋正次郎作曲
歌舞伎の舞踊曲で、
謡曲「高砂」をベースに古風な曲調から始まり、華やかな槍踊り、
松の様々を読み込んだ「松づくし」の踊り地と続きます。
舞踊曲として変化に富んだ人気曲です。
「軒端の松」
1845年 二世杵屋勝三郎作曲
「軒端の松」という新酒の宣伝のために作られた素演奏用の曲です。「松」を唄った曲ではありませんが、ユニークなのでご紹介しておきます。
永年変わらぬ繁栄の象徴である「松」を唄う曲は、おめでたいものが多いようです。
またそれとは別の用いられ方もあります。
古典芸能の歌詞には「掛詞」(かけことば)という技法が多様されています。
掛詞とは、同じ音使いの語を利用して別の意味も持たせる技法です。「松」の場合、他に「待つ」という語があります。
長唄の曲の中には、男女の情愛の題材を扱った曲が多くありまして、好きな相手を待つ というシチュエーションを綺麗に飾るのに品格の良い「松」がとても都合の良い掛詞なのだと思います。
松永忠次郎
白金台 古典芸能さろんは白金台を中心に長唄・三味線・日本舞踊・河東節のお稽古やご公演依頼を承っております。ご興味のある方はお気軽にお問い合わせ下さいませ。
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